2011年9月30日金曜日

研究会参加メモ-「自律学習」に集まった関心事-「自律的な言語学習のデザインとその支援」 発表討論会

先週、非常勤の勤務校で標記の研究会が行われた。小規模なものだったので集まる人は内輪だけかと思っていたが、他大からも院生を含め参加者がいて、「自律学習」という言葉には関心があるのだと感じた。私も拙い発表をさせていただいた。
当日は「自律を目指すことばの学習」の桜美林大学の齋藤伸子先生もスカイプで講演をしてくださり、そのやり方も初めてのものだったので、色々と面白かった。当日の発表、討論を私なりにまとめ、思ったことを含めメモしておきたい。

○「楽しく走れる日本語自学ハイウェイ構想」
発表原稿のまとめのところで「日本語教育でもさまざまなリソースが用紙されているが、これまではリソースの平面的な羅列にとどまっていた感がある。それをどのような形で学習者に提示していけばよいか、ここでは、われわれの生活に身近な高速道路を例にシステムの全体像を考えてみた」とあるが、運転免許を取得して高速道路を走る楽しみを学習支援システムに置き換えて考えるというものだ。
私の理解で乱暴にまとめてしまうと、
今はリソースはたくさんあるけれど、ばらばらに提示されていたが、学習者が自分の学習の通る道を見通せるような提示の仕方をし、そこには、教師だけでなく、いろいろな人が関わるようにできるといい。その提示の仕方、他の人が関わることができるような仕組みを教師が作っていくことを考えたい(通る道筋を提示すること、教師以外の人が関わることが自律学習につながる)
ということなのではないかと思う。
「燃料」を比喩に、語彙の重要性も強調されていた。発表者の先生は、学生に語彙リストをわたしているということだった。日本語では基礎語彙で理解できる範囲が狭く、語彙数が大きな意味を持つからだ。ただ単に教科書に出てくる語彙を覚えましょうというのではなく、将来的にどのぐらいの語彙力がないと、理解ができないかという道筋を提示して、そこにいく道順を語彙リストとして提示しているということなのだろう。 

○「スカイプを通した中国語学習支援の一考察」
 私も支援してもらったが、この研究会の主催校のK先生担当授業「日語分科教学法」で、学生たちが学習者のニーズを聞いてコースデザインをし学習支援を行った。その学生による発表だった。
元々曖昧な学習者のニーズ(台湾ドラマを中国語で楽しみたい。教科書のような言葉ではなく、台湾人が日常的に使っている文法を知りたい。台湾の友だちへのメールなどを添削してもらいたい。)だったが、年末に高雄を旅行することがわかり、高雄旅行で使える会話を目的にしてコースデザインを行なっていた。
 レッスンは週2回、スカイプを通して1時間だが、毎回、予習用の聴解音声、その文字化ファイル、レッスン当日は会話音声ファイル、補充教材、など、多彩なものが用意され、製作した学生たちはさぞ大変だったことだろうと思った。
 発表の最後に学習者から高雄旅行の後に送られたお礼のメール(中国語と日本語)があった。コースの中で、「バスに乗る。バスの運転手さんとの会話」というのがあったが、それも実際に使ったということだった。学習者の「使えた」達成感が目に浮かぶようだった。
 実は時間がなくて聞けなかったのだが、曖昧なニーズからどうやって高雄旅行のことを聞き出せたのかが知りたかった。結果的には「高雄に旅行するんだからそのためにそこで使える中国語を勉強するのが、実際に使えるし、実用的でいい」と思うが、私たちが実際に「何が勉強したいですか。今、何に困っていますか」のようなニーズの聞き方をされても、「高雄旅行に行くので…」という答えは出てこないことも多いと思う。「自律学習」でも具体的な到達可能な目標設定をするのが難しいことが語られているように思うが、ニーズや目標と学習デザインを結びつけるのは結構難しい。今回は見事に成功させていたが、どうやってそこに到達したのか、そのプロセスを知りたかった。

○「高中第二外語基礎課程自律學習的可能性與問題點」
 タイトルを日本語にすると「高校第二外国語基礎課程の自律学習の可能性と問題点」になるかと思う。
 発表者の先生が高校の第二外国語選択日本語クラスで行った学生のポスター発表の取り組みが紹介された。
 ポスター発表は、生徒たちを6-8人のグループに分け、自分で日本語の素材をさがし、それについて説明するポスターを作るというものだ。
選択で日本語を履修している生徒たちは、元々日本のものが好きないわゆる「哈日」な生徒たちで、日常生活の中で漫画や商品やドラマなどで「なんとなく知っているけどはっきりわからない日本語」を「はっきりわかりたい」という気持ちを持っているという。
 この活動で面白いと思ったのは、「他の人に教えてあげる」という活動目的、グループ学習では日本語が得意な生徒が他の生徒に教えるという「協同学習」的な要素が出てきたこと、またアクネス洗顔料という商品を紹介したグループの発表が好評で、それは、広告の中でニキビ対策の洗顔方法が歌になっているのだが、その内容を知ることで、日頃ニキビに困っている多くの高校生にとって「実用的だった」ということだ。
 私の記憶では口頭発表の時にはあまり触れられていなかったように思うが、発表原稿を見ると下のように書いてある。
最後,重要的是長久以來我們會不會因為課程名稱的「外語」這兩個文字的影響,而把焦點過於放在「語言」這個框架裡?學習的樂趣是什麽?學習的成果該如何定義?這也許未來的研究課題吧!!
(勝手な簡訳:授業名称の「外国語」という言葉に影響され、我々は長いこと「言語」という枠にとらわれすぎていたのではないだろうか。学習の楽しみとは?学習の成果とは何か。今後の課題だろう。)
高校の第二外国語は大学入試とも関係なく、実際の時間数はだいたい60-64時間ぐらい。これは1週2時間で1年間の課程だが、1学期間だけという学校もあるらしい。そんな時間数でいったい何ができるのだろう?そんな風に思っている高校の教員も多いのではないかと思う。高校だけでなく、大学の第二外国語科目を担当している教員にしても同じかもしれない。そう言えば私も、やむなく日本語を学習することになってしまった学生たちを前にして、ここは何をするところだと考えればいいのか、と悩んだことがあった。
 この発表は、そんな現場から、学習者が自分の実際の生活とつながる学習(自分で見た・聞いた素材を持ち込む)、自分が学んだことを人に伝えて喜んでもらうことで学習の達成感を感じる、そこが「自律学習」と関係するところだということだろう。

○「インターネットを使った、日本語学習時に於ける問題解決方法の提案」
 発表の主旨をまた乱暴にまとめてしまうと、実際に日本語を使う機会が乏しい学生たちに、実際のコミュニケーションをとる機会を提供したい。それに、インターネットの質問箱サイトが利用できるのではないか、ということだった。
 へえ、と思ったのは、日本の質問箱サイトを取得するのに台湾からだとIDが取得できないものがあるということ。紹介されていたのはOKWaveだったが、OKWaveは台湾からでもIDが取得できるが、話の中であったのは確かYAHOOはIDが取得できない(か、投稿ができないか忘れたが)ということだった。
 この発表では、教室の教師から与えられる課題をこなすことが学習になっている学生たちに、いかに実際使用機会を与えるか、実際使用機会を通して個々の問題点や課題を見つけてもらう機会を持たせたい、ということから始まっている。そこが「自律学習」とのつながりなのだろう。


 この発表討論会に参加して思ったのは、「自律学習」という言葉での関心はそれぞれだということ。時には、思っていることが違っていて、話がかみ合わないと思えることもあるし、その状況は自分のいる現場とは離れていて話にのれない、という雰囲気になることもあった。私自身も終わってから、今日の話はどうまとまっていくんだろう、と考えてしまった。
 ちょっと話は横道にそれるが、以前大学院生と話していて、彼らが思う「自律学習」が「学生が目標を決めて自ら楽しく勉強をし続けいていく」という像を思い描いているように感じられ、「それはなんかちょっと気持ち悪い」とコメントしたことがあった。院生たちには思いっきりびっくりされてしまったが、その思いは今も変わっていない。
 みんな「自律学習」と聞いて思うことはいろいろあって、共感できない部分もあったりする。でも、そこで、じゃあ「自律学習ってなんですか」のようなことを考えていっても、それは時には必要なことではあるけれど、前に進むことがなかなかできない。ここに集まってきた人たちは、現状肯定そのまま持続という姿勢ではなく、何かやっていこうとか、何か考えていこうとか、そういうことを思っている人たちだ。その思いは充分伝わった気がする。
 「自律学習」をタイトルに掲げた発表討論会はこれで二度目(この大学主催の)だった。三度目もしたいということだったが、次回はもう少し突っ込んだ話がしたいなと少し思った。

0 件のコメント:

コメントを投稿