2017年10月9日月曜日

【読みました】原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年

 数日前、NHKのニュースを見てはっとした。原爆供養塔の周りの清掃をしていた佐伯敏子さんの訃報だった。私が佐伯敏子さんの名前を知ったのは、この本の紹介をラジオ番組で聞いたからだ。少しずつ読んではいたが数ページしか進んでいなかったこの本を、ちゃんと読まなきゃと思った。
 「原爆供養塔にまつわる様々な事実を取材してまわ」って書かれた本書。清掃をしていた佐伯敏子さんの物語。遺骨名簿の作成に関わった少年兵の物語。遺骨を探す家族、受け取る家族、受け取らないことを選択する家族、それぞれの物語。
 「戦争は広島の“七万柱”のように、死者のことを何千人何万人とひとくくりにしてしまう。」本書はひとくくりにしてしまった人たちをときほぐし、死んでいった人と、そのひとりひとりに関わる人たちの物語を可能な限り描き出そうとしている。その物語は、どれもとてつもなく重い。
 「貧しく、弱い立場のものから矢面に立たされ殺されていく、そしてエリートは生き残る、これが戦争の現実なんですよ」広島の救護・遺体収容活動にかり出されたのは、全国から集められた少年特攻兵だった。海軍エリート学校の生徒は広島入りはしていない。原爆の人体への影響がわかっていたからだ。元少年特攻兵が事実を調査し、その不条理を訴える。
 この少年特攻兵たちは故郷へ帰り、多くが「原因不明」で亡くなったとされている。放射能の影響など当時は知りようもなかったからだ。本人は、周りの家族は、どのような日々を送ったのだろうか。さらに多くの物語が広がっているように思う。


 

2017年7月18日火曜日

【読みました】サラの鍵


 姉が貸してくれた「小泉今日子書評集」で紹介されていた本。史実を扱っているが小説である。
ナチスに占領されていたフランスで、ユダヤ人が大量にフランス警察に検挙されその後収容所に送られたヴェルディヴ事件。タイトルのサラは、この事件で検挙された、当時10歳の少女の名前。もう一人現代のパリに住むアメリカ人ジャーナリスト、ジュリアがこの小説の主人公。この二人のそれぞれのストーリーが行ったり来たりしながら小説は進んでいく。サラのストーリーとジュリアのストーリーでは使われているフォントが違うのでひと目でそれとわかるようになっている。
 本の帯からこの小説は2011年には映画化されていてジュリア役は私も見たことがある女優さんが演じているようだが、この小説も映画も知らなかった。シラク大統領が1995年にこの事件について正式に謝罪したということも、そもそもヴェルディヴ事件という名前すらも、知らなかった。
 主人公のジュリアは、上司からヴェルディヴ事件の取材を任された当初は、それがどんな事件なのか少ししか知らず「自分がいかに無知かをあらためて思い知らされた」と語る。フランス人が触れたがらない微妙な問題の取材を進めていくジュリア。フランス人の夫、夫の家族との関係にも変化が生まれてくる。
 印象的だったのは、幼い頃のサラを知る老人にジュリアが話を聞きに行った時の老人とジュリアのやりとり。老人はジュリアに問う。なぜ知りたいのか、この問題がなぜあなたにとって重要なのか、何のためか…、ジュリアが答えても答えても老人は執拗にジュリアに問い続ける。最後にジュリアは、自分が45歳になりながら何も知らなかったことをサラに謝りたいと言う。
 最後の答えは私の心にすっと入ってくるものではなかったが、一つの答えではあるのかなと思った。