2013年5月6日月曜日

台湾第四原発の周辺

 自救会の会長さんにお話を伺った後(「台湾の第四原発-自救会の会長さんのお話」)、実際に原発周辺に行ってみた。
 原発敷地内の見学もできるのだが、会長さんが原発の人に連絡してくれたところ、休日だし事前に申し込みがないと内部の見学はできないとのこと。外から見るだけでもと、会長さんの運転する車で原発の場所に向かった。
 駅に集合し歩いていた時にも多少降っていた雨が、かなり本格的な雨になっていた。
 自救会から再び駅方向に向い、観光客の車がたくさん止まっている中をぬけて、広い道路を走っていくと、そこは原発。見えるのは煙突と原子炉建屋。以前、台湾プラスチックのコンビナートを見学に行ったことがあるが、その時は外から見てもいろいろな設備があるのが見え、大規模な何やらやっている感があったのだが、原発はいたってシンプルに見えた。
 自救会の車は、正面に「自救会」と大きく書かれていて見ればひと目でわかる。私は気づかなかったが、車が着いたとたんに、正面の鉄格子の門が車が入れない程度に閉められたようだ。中に入れないし、雨が降っていて視界が悪くよく見えないけど、とりあえず車から降りて外に出てみる。鉄の門の向こうには駐車スペースがあり、車が何台か止まっている。その先に警備員さんがいる建物があって、警備員が4名ぐらいいるように見えた。休日ではあるが、中の道を車が何回か通って行った。
 どのぐらい経っただろうか、雨もひどいしそろそろ車に戻ろうという時、会長さんに電話がかかってきた。後で聞いたところによると、その時に警備員のところに中にいる警察の車が来て(外からはただの黒い車にしか見えなかった)、電話はその警察から。「いつまでいるの?」という内容だったそうだ。警備員さんも一応仕事だから門を少ししめ、警察も仕事だから自救会の人が来たらチェックする。自救会にいた時に、会長さんが内部の見学ができないかどうか、原発の人に電話をかけてくれたのだが、その時にも、「今は、お互いにコミュニケーションを図ろうということになっているから、原発の人も知り合い」と言っていた。車にいたら、中からオートバイの人が出てきて、会長さんに手を振って挨拶し通り過ぎた。いわゆる対立という感じではないようだ。
 近くに水道局の水源がある、ということなので見に行く。ここも、会長さんが連絡してくれて、中に入れてもらった。この水源からは3箇所(地名はよく聞き取れなかった)と基隆市の一部に水が供給されている。原発で事故が起き放射性物質が広がったら、間違いなくこの水源も使えなくなる。そうしたら、多くの人に影響が出る。
 台北からの電車から、線路沿いに綺麗な川が見えた。川で遊んでいる人も結構いた。私の台湾の生活区域ではどぶ川みたいな川しか見たことがなかったので、いいなあと思いながら見ていた。あの川も人が近寄れなくなるのかなと思った。
 「この場所の特色は、川の淡水と海水が交じり合うところがあることなんです。そこを見ることができるけど、行ってみますか」というので、水道局を離れ、次の場所へ移動。
 次に来たのは海岸を少し見下ろす感じの場所。廟があり、車が止められる広場になっている。少し遠くにサンドアートが見える。左側から海に向かって川の水が流れ込んでいるのが見える。天気がよければ原発も見えるらしい。海岸では釣り糸を垂れている人、海ではサーフィンをしている人がいる。天気がよければもっと遊んでいる人が多いのだろう。
 福隆は特に産業もなく、観光が収入源。原発がひとたび稼働したら、事故が起きなくても、海に遊びにくる人は少なくなるだろう。
 最後に駅まで送っていただいた。駅には観光客がたくさんいた。楽しそうな観光客と原発の対比が不思議な感じがした。観光客のすぐ近くに原発がある。原発はいたってシンプルで見た感じは危険そうなにおいはしない。私の家から高速までの道にある台湾プラスチックの工場のほうが、何やら変なにおいがして(時々家の近くもそのにおいがして)、危険さを漂わせている。放射性物質も目に見えない。わけのわからないとても透明な感じ。黒よりも怖い透明、そんな感じがした。

台湾の第四原発-自救会の会長さんのお話

 5月5日、台湾北部「貢寮」にある核四(第四原発)に反対する「自救會」を訪ねた。大学の同僚のF先生の授業で学生を連れて見学に行くのに混ぜていただいた。
 台中から新幹線で台北まで1時間、台北から電車に揺られてまた1時間。「貢寮」駅もあるのだが、降りたのは「貢寮」駅の一つ先の「福隆」。原発建設地なので海沿いの場所。その日は海岸でサンドアートのお祭り?も開催されていた。F先生から「福隆」はお弁当が有名と聞いて、お弁当が有名って何?と思っていたが、駅を降りると駅前の道の両側に店が並び、確かにお弁当屋がたくさんある。さらにどれが有名店なのか見てすぐわかるほど、駅前すぐの店は長蛇の列。観光客と思われる人たちがたくさんいた。駅でみんな集合し、サイクリングロードをとぼとぼ歩いて、10分ほどで「自救會」に着いた。
 核四は、今年、その是非を問う国民投票が行われることになっていて、3月には大きなデモ行動も行われた。
 私の中国語力では難しかった部分もあるが、以下、私が理解した会長さんのお話の内容。
・核四の歴史。民国69年(1980)に建設計画が出された。民国74年(1985)、蒋経国の時に、住民の反対にあい、建設計画は一時停止される。民国77年(1988)、「自救會」ができた。建設計画からすでに33年が経過。「自救會」は25年の歴史を持つ。
・台湾の第一から第三原発までは、セットで外国に作ってもらった。第四は、第一から第三とは違い、独立した計画。台湾電力が第一から第三の経験を元に、中心となって計画。
・原発がなければ電力不足が起きると言っているが、今、台湾の電力使用量は減少傾向にある。(工場が中国などに移転した結果)第四原発がない現在、電力不足の問題は起きていない。電力不足が起きるというのはウソ。
・現在ある原発では、高濃度の放射性廃棄物は、元の原発の場所に保管されている。保管方法に問題があり、原発周辺地域ではガンの羅患率が高い。
・原発はブラックボックスに包まれている。建設現場も、予算の使い方も明らかにされない。
・原発は安全でクリーンで安いと政府は言うがそれはウソだ。安いのウソの一つが中央埠頭の問題。核四のために作った中央埠頭は、自然の海流を止めてしまったので、自然の海流があれば流れていった砂がたまるようになり、それを毎日抜き取るために巨額の費用がかかっている。
・原発ではこれまでにも事故が起こっている。原発では何万本もの線が使われていて、そのうち1本でも問題が起きれば事故が起きる。事故が起きて放射性物質が拡散すれば被害は大きい。
・アメリカや日本のような高度の科学技術を持った国でも原発の事故が起こっている。(技術力が高くても事故は起きる)まして、台湾はアメリカや日本に比べて国土が狭い。そんなところで事故が起きれば大きな影響が起きる。小さな台湾で原発はいらない。
・核四の場所は、三つの活断層がある。地震の危険が大きい。
・地震が起きて想定される津波は20メートルに及ぶと言われている。しかし津波を防ぐ壁は12メートルしかなく、津波の被害から守ることができない。
・政府は、「原発から何キロ圏内」という言い方をするが、放射性物質が風にのって飛散するので、風の方向によって影響が変わり、中心から等距離に影響が出るものではない。政府の考え方は正しいことを伝えていない。
・国民投票は、ハードルが高すぎる。有権者の過半数が投票に参加しなければ投票は成立しない。核四を停止させるには、国民投票を有権者の過半数が投票に参加し、さらにその過半数が停止に賛成票を投じる必要がある。それは事実上不可能。(過去、国民投票が成立したことはない。総統選と同時に行われた国民投票ですら、過半数投票には達しなかった。)来年は大きな選挙が控えているが、現政権の国民党はその選挙と同日に国民投票を実施したくはない。だから今年中に国民投票を行おうとしている。
・国民党は核四賛成、民進党は核四反対、という政治的にはっきり対立があるのでもない。それぞれの中にも賛成や反対意見がある。
・地元の反応。最近は地元で大きな動きはない。3月9日の台北でのデモには多くの人が参加したが、それはむしろ意外だった。核四では200人強の地元民が働いていて、核四がなくなれば、その人たちが失業するという影響もある。
・会長さんの国民投票への見方。馬英九総統は、国民投票が成立せず、そして反対票がわりと多いという状況をねらっているのかもしれない。反対票が多かったので、核四を停止にはしないが、国民の意向を組んで、一時停止に持ち込む。そうすれば、自分たちのポケットにお金が入る。

 以下、質問とそれに対する会長の答え。
Q:火力発電は温暖化を引き起こし環境によくないと思うが。
A:それもあるかもしれないが、原発で放射性物質が出たらその影響は計り知れない。その影響のほうが危ない。
Q:国民投票の話が出る前と後では地元の様子は何か変わったか。
A:もう30年以上の問題なので地元は麻痺している。

 お話ししてくださった会長さんも、歳の頃は私とそう変わらないように見えた。とすると、30年以上のこの問題は、会長さんも計画が始まった頃は、子どもだったということ。最初の反対運動をしていた人とは、今は世代交代しているはずだ。逆に、計画を立ち上げた側も世代交代している。会長さんを前に、30年は長いなあと感じた。

2013年5月5日日曜日

台湾の英語教育は実用的なの?

 きのう、江利川春雄氏のブログ記事‘「大学入試にTOEFL」の黒幕は経済同友会’を読んでいて、コメント欄の内容に少し??と感じた。中国、韓国、台湾は学校教育で英会話の習得に力を入れているというような内容なのだが、台湾での私の印象はそうではない。よく言われているのは日本と同じようなこと。受験のための勉強ばかりしていて、実用的な英語は身に付いていないというものだ。そして、実際に英語を話せる人が日本と比べて目立って多いかと言えば、そうではないというのが私の印象だ。
 台湾に来たばかりの頃、私も中国語ができずに第二外国語のクラスを担当して、英語を使って授業をしていた。という私もそんなに英語ができるわけではないが、第二外国語のそれも初心者クラスだったので、話すことと言ってもごく簡単なこと。学生のほうも何か用事があると英語で私に話していたが、その時の印象もそんなに英語が上手という感じは受けなかった。一応こちらも教師なので、学生のほうが英語ができると多少引け目を感じるところだが、そんなふうに感じることはなかった。ただ、教室に行って第一声「英語で話していい?」と聞いて英語で話し始めてもいやな顔をあまりせずに受け入れてくれたことはありがたかった。元々外国人教師のクラスを選んで取りに来ているので、受け入れる素地があったのかもしれない。
 日本語学科の授業で、いわゆる内容科目(日本語の習得だけを目的としたものではない科目)を受け持った時に、資料として英語を渡して読んでくる宿題を出したのだが、その時もそんなにすんなりいったわけではなかった。確かに私も日本よりは(というより、大学時代の自分よりは)、台湾の学生のほうが英語ができるんじゃないかと思っていたところはあるが、そうではないんだなと感じた覚えがある。
 そしてもう一つ。「英語で話す人に限って英語ができない」というのが、英語を使っていた時の印象。私が一言中国語を発すると、外国人であまり中国語ができないとわかり、そうすると相手は困った顔をしながら、英語で話そうとする。でも、そういう時に限って英語での会話は早々に終わる。買い物で値段ぐらいなら言ってくれるが、それ以上の内容になると中国語になる。
 以前勤めていた学校の事務方と話す時によくあったこと。私が何か用事があって行くと「あら、外国人が来ちゃった、どうしよう」と戸惑った顔をし、英語で話し始める。私がカタコトの中国語で話しかけたとしてもだ。そこまではまだいいが、学校の事務方と話す時は特に、街で買い物するのとは違い込み入った話になることが多い。そうすると、相手も英語でどうやって話したらいいかわからなくなり、途中から突然中国語になる。「そこまでの英語ぐらいだったら、私の中国語でわかるんですよ。その難しいところこそ、英語で話してほしいんだけど…」と思ったことが何度もあった。
 逆に、学科の先生たちは英語学科なので英語ができるが、私が中国語で話している限り中国語で応対してくれる。時折、私がわからない中国語があって「○☓□?」というと、英語で教えてくれた。

 もちろん、英語が話せる人もたくさんいる。でも、日本も同じなんじゃないかと思う。以前担当していた台湾と日本との学生の交流活動では、日本語を使ったり英語を使ったり、それぞれの得意分野で話していたのだが、日本の学生でも英語が上手だなと思う学生も多い。また、ここ数年、日本に帰ったときに、英語で何やら議論している人を何回も目にしたり、英語で道を聞かれてそれにそつなく答えている場面を見たり、築地で外国人客に商品の細かな説明をしている店員さんを見たりして、「英語できないっていうけど、そんなことないんじゃないの?」と思うことが多くなった。
 違うなと思うのは、外国留学が台湾のほうが高く評価されることだ。これは、古い日本の印象かもしれないが、日本では高いお金を出して外国に留学したとしても、そんなに評価されない。名前を知っている有名な大学を出たのならまだしも、アメリカの名前も知らない大学を出たぐらいだと、あまり評価されない。日本と台湾では大学の数が全然違うので一概に比較はできないが、台湾だと外国に留学したら、それなりに評価してもらえる。どこの大学を出たというよりも、外国留学したことが評価される。(台湾の大学でも、大学間格差はあるので、どこの大学を出たかという感覚は持っている)

 最後に、あんまりよくは知らないが、中国について。台湾で私の日本語クラスに来たごく少数の中国人、それも日本語でのことだが、会話はできない、という印象を受けた。文法はよく知っているし、書けば難しいことも書けるのだが、会話はさっぱり。会話以前に、書いたものを声に出して読んでもおぼつかない。中国で日本語を教えていた友人曰く、ものすごい詰め込み教育で、やはり書けるが話せない人が多い。ただ詰め込みが尋常ではなく、進度は早いし覚えろと言ったら必ず覚えてきてそれはすごい、ということだった。日本語がそうなら、英語もさして違いはないのでは、と思ってしまう。

 ということで、台湾や中国の英語教育と比べ、日本の英語は実用的な力が身についていない的なコメントには、そうなのかなあ????と思う。