2011年8月3日水曜日

[本]会話教材を作る

会話教材を作る (日本語教育叢書 つくる)
尾崎 明人 中井 陽子 椿 由紀子 関 正昭
4883195287


タイトル通り、会話教材を作るための理論と実践をまとめたもの。教材例も多数あってわかりやすい。私が役に立つと思ったのは、いくつかの部分での理論的なまとめだ。なんとなく感じていたが整理できていなかったものを整理してまとめて提示してくれている。

以下、自分のための覚書。

1、交流会話と交渉会話(第1章第1節)
話すことには「独話」と「対話」がある。「対話」は2つのタイプがあり、面接や会議などの談話管理者がいるものと、日常の会話のように談話管理者がいないものがある。この談話管理者がいないものを「会話」と呼ぶ。
「会話」には「交流会話」と「交渉会話」の2つがある。「交流会話」は話すこと自体を目的としてる、いわゆる「雑談」。「交渉会話」は何かの物事を具体的に処理することを目的とする会話。「交流会話」と「交渉会話」は、別々にあるわけではなく、1つの会話の中に両者が含まれることもある。
「交渉会話」はある程度談話の型があるのでその談話展開の型とそれに関わる言語表現を指導する。「交流会話」は、何を話題とし、その話題をどう導入、展開、終結させるかが指導のポイント。

この「交流会話」と「交渉会話」、なんとなく2つの違いがあると思っていたが、こうやって名前をつけてもらえるとはっきりしてわかりやすい。「交流会話」は、「導入、展開、終結」ということをあまり意識していなかったので、なるほどと思った。一つの話題を深められない、尋問のように、質問、答えを聞いて、また次の質問、ということがおこりがちでどうにかしたいと思っていたが、やはりここが指導のポイントだったのかと思う。この「導入、展開」については、第3章第2節で、初対面の会話(雑談)での会話展開について、実際の会話と会話参加者へのフォローアップインタビューが掲載されており、面白い。

2、モデル会話の自然さ(第1章第4節)
モデル会話の自然さには、言葉の自然さと内容・展開の自然さがある。言葉の自然さは、日本人から見て不自然であっても学習者のレベルに応じた「自然さ」で構わない。しかし、内容・展開の不自然さは入門レベルであっても避けることができるし、避けるべき。
あまり考えたことはなかったのだが、とても納得。

3、聞き返し(第2章第3節)
聞き返しには基本的に①反復要求型(もう一度言ってください。)、②説明要求型(~はどういう意味ですか。)、③聞き取り確認型(~と言いましたか。)、④理解確認型(ホッチキスってステープラーのことですか。)の4つに分けられる。
聞き返し回避の方略は消極的回避(分かったふりをする)、積極的回避(分からない語には言及せず、ほかの方法で意味を確認する)に分けられる。
説明要求型の聞き返しには、話の流れを中断してしまったり、聞かれた側の日本人がうまく説明できずに気まずくなることもある。学習者には、理解確認型の聞き返しや聞き返しの積極的な回避を指導する必要がある。
聞き返しの種類は、理解はしていたが、それを明確に教材化したことはなかった気がする。また、説明要求型の聞き返しがうまくいかないことは、実際に多く(説明しても余計わからなくなってしまい、お互いに気まずい)

積極的な回避の例は

佐藤:私がそこまで迎えに行きますから、塩釜口の改札口は1か所しかありませんからね。
ファン:はい、分かりました。そこで待っていればいいんですね。
(「迎えに行く」が理解できなかったが待ち合わせの場所で待てばいいことを確認している。)

積極的な回避の指導は、「自分がわかった範囲のことを相手に伝える」ことだろうか。(約束の際に時間や場所を繰り返して確認することを学生に言ったら「しつこいんじゃないか」という反応が返ってきたことがあったが、これもそう思われるのだろうか。)

4、コミュニケーションの機能(第2章第4節)
①事実関係を伝える活動
事実などの情報のやり取り
②心の動きを表す活動
自分の感情や評価を伝える
③相手に働きかける活動
他者に働きかけて行為をさせる、了承を得る
④交流していく活動
おしゃべりなどによって、相手への関心を示す、自分を知ってもらう
⑤メタ言語的な活動
発話している言語自体についての説明、行っているコミュニケーション活動に対する言及
⑥言葉で遊ぶ活動
言葉の響きや美しさ、リズム、繰り返しなどに焦点を当てて楽しむ

6つの機能は相互に絡み合って用いられる。

「②心の動きを表す活動」は、あまり注意してやっていなかった気がする。Facebookなどのコメントによく使われる感じがするが、意識してやってみたい。

5、会話のフロアー(第2章第4節)
会話の空間を参加者たちがどのように共有しているかを捉える概念。
「心理的な時間と空間において何が起こっているかが認識されているもの」
「話題、または、機能(からかいや応答を引き出す等)、あるいは、この2つの混合、を含むもの」
聞き手の参加の度合いにより以下の2つに分かれる
「単独的フロアー」
1人の参加者がフロアーを独占し、他の参加者がそのフロアーに協力している状態
「共同的フロアー」
参加者すべてがそのときに展開している会話に参加し、フロアーを共有している状態 
フロアー別の会話練習活動デザイン例
①モノローグによる単独的フロアー →学習者が1人ずつクラスで口頭発表。
②ダイアローグによる単独的フロアー →グループでインタビュー。
③共同的フロアー →ディスカッション
学習者にとって、フロアー参加の難易度に変化を持たせた会話練習活動が必要。

確かに、授業中に意見を言うなどは、共同的フロアーで難しいのだろう。(学生が授業で意見を言うために、というのが、以前、勤務先の会議で話題になった。)その時は、何を言うかという内容に焦点があたっていたような気がするが、フロアーの形態も考慮に入れて、授業設計をしないといけない。

こうやって整理されたのを見ていると、自分がしていることは、偏りがあって、必要なのに取り入れていないものがあることに気付く。全体を通してバランスよくできるように見直したい。


2 件のコメント:

  1. 著者の一人です!
    興味をもっていただいた点のご指摘とご意見、とても参考になりました!またいろいろ情報交換できたら幸いです。

    返信削除
    返信
    1. 中井陽子さま
      コメント、ありがとうございました。ちょうど新しく会話の授業を受け持つことになった時にこの本に出会いました。いいタイミングでいい本に出会えて本当によかったなと思っています。

      削除