2013年12月16日月曜日

いい授業ってなんだろう??

 「いい授業ってなんだろう??」そう今も考え続けさせられる、忘れられない体験がある。

 その時勤務していた学校(在外の日本語補習学校)で、研究授業があった。その日は、E先生の5年生の国語の授業。E先生はいつも熱心に授業準備をされていて、時折、図書室で作業している子どもたちを見ると、とても楽しそうだった。どんな授業をなさるのかなと楽しみにしていた。
 他校からも教員を招いての研究授業だったので、教室の中は大人がいっぱい。他の先生も、校長先生も、知らない大人もいる。子どもたちもいつもとは違う雰囲気にすっかり緊張している様子だった。そして授業は…たぶんいつもなら子どもたちから声があがるのだろうが、その日はすっかりシーン。E先生もやりにくいのではと参観しながら思っていた。事前に配られていた教案の5分の1も進まずにその時の授業は終わってしまった。
 職員室に帰ってきて、校長先生がぽそっと一言。
 「しゃあないな。こういう日もあるさ。」
その日の授業は、簡単に言えばちょっと失敗に見えた。子どもたちから発言がないので、授業の進みは遅く、冗長、教員の発言ばかりが多かった。たぶん、参観した大方の教員がそう思ったのではないか、と思う。いつもなら、もっと面白く活気がある授業をE先生はしているのだと思う。今日は、あまりにもいつもと条件が違いすぎた。E先生、気の毒だなと私は思っていた。校長先生の一言もそんな感じだった。
 その後は自分の授業があるので、教室に行った。
 授業を終えて職員室に戻ってきたら、校長先生が言った。
 「A君のお母さんから、さっき電話があってな。」
 A君は、さきほどの研究授業のクラスに在籍している男の子。日本語が得意ではなく、やんちゃで、いつも同じクラスの男の子とふざけている、という印象の子だった。
 「A君が、今日の授業はよくわかった。面白かった。そう言って、初めて自分から国語の教科書を出して音読を始めた。読みながら泣いていた。そうお母さんが言って、喜んでおられた。」
その後、またぽそっと一言。
「わからんもんやな、授業は。面白いな。」
私もへえーとびっくりした。5年生のクラスは20名ほど。そして、その大部分の子どもたちにとって、今日の授業はいつもよりいまひとつの印象だったのではないかと思う。少なくとも、周りで見ていた教員たちにはそう見えた。でも、A君にとっては違った。今までで、たぶん幼児部から学んできた5年間の中で最高の授業だったのではないだろうか。そしてもしかすると、そんなに心を動かされる授業は、その後も残念ながらないかもしれない。いつも通りの授業であれば、少なくとも他の20名の子どもたちにとってそれなりに面白い授業。今日の授業は、他の20名にとってはあまり面白くないが、A君にとっては何年間もの学習生活の中で最高の授業。どちらがいい授業かなんてたぶん誰にもわからない。というより、そんな問いをたてることが間違っているのかもしれない。

 いい授業ってなんだろう。そう考える時にこの日のことをいつも思い出してしまう。